可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。
-----歳、離れてそうに見えたけど。いつからのどういう知り合いなんだよ
-----なんでこんなときまで親に連絡しないんだよ
-----あいつのこと、このまま放っておくつもりなのか
渚はいろいろ聞いてくるけど、あたしは何も答えられない。
俯き続けていると、渚は苛々した様子で缶を宙に放った。放物線を描いたそれは、きれいにくずかごの中に納まる。
「…………ごめん、渚」
「べつにいい。なんかだんだんおまえの秘密主義が快感になってきたしな」
そんな嫌味を言いながら、あたしの手を引っ張ってベンチから立ち上がらせる。
「行くぞ」
「………どこへ?」
あたしの疑問に、渚は鼻を鳴らす。
「ラブホとかじゃね?そういやさっき行き損ねたしな」
本気の言葉ではないようだけど、渚がそういうつもりなら、もうそれならそれでいいような気がした。
唯一の安全地帯だと思っていた『砦』も、あたしは失ってしまったんだし。もうあたしには行き場所なんてどこにもない。
もうどうでもいい。そんななげやりな気持ちのまま、渚に手を引かれて歩いていく。渚が今だけこの手を離さないでくれるなら、もういいやって、あたしは思考を投げ出したくなる。
でも公園を抜けて大きな通りに出ると、夕日が差してきて。
その眩しさにあたしと渚は思わず足を止めた。
網膜に刺し込んでくる、力強い赤さ。
なぜかそのとき、あたしは今見てる景色を一生忘れないんだろうなって思った。
汚れた靴下を脱いで素足に履いたお揃いのサンダルとか、あたしの手を引く渚の手の温かさとか、あたしを心配している所為でひどく苛立っている渚の横顔だとか。
きっとこれから何年も何年も忘れることが出来ずに過ごすことになるんだろうって。
たとえ渚があたしの傍からいなくなっても。卒業して大人になっても。
あたしは今の渚を一生忘れることが出来なくなるんだろうって。
そう思いながら、ただ目の前にある光景を、この世界を、あたしは瞼の裏側に焼き付けた。