可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。
「ウチに、置く、だと」
渚の言葉に、人の良さそうな顔をしていたお兄さんの顔がいっきに険しくなる。
「…………ざけんな、渚ァ。調子こいてんじゃねぇぞ、コラ。高校生は不純異性交遊禁止なんだよ、わかってんのかてめぇ」
「そうだよー、高校生だからってカノジョのお持ち込みなんてズリぃよー、何考えてんだよー。だいたい兄弟の精神衛生上、そんなことが許されるとでも思ってるわけ?」
お兄さんと弟くんはあっと言う間に渚を取り囲んで、背後からはがいじめにして、正面からは胸倉つかんで、手荒いことをやりだす。
「離せよ。ちっとは人の話聞け、この単細胞兄弟」
「兄ちゃんに向かってなんて口聞くんだ、この馬鹿弟」
「馬鹿はてめぇだ、この就職浪人。これ以上無駄な学費でウチの家計圧迫すんな」
「……うあ、それだけは言わないお約束でしょー!!」
ドスを聞かせていたはずのお兄さんは、渚の毒舌に急に半泣き顔になる。その間にも弟くんが妙なことを言い出す。
「てかなんでいきなしカノジョと同居させろなんて言い出すの?…………って、うあっ。ま、まさかデキちゃったの?それでカノジョ、親に勘当されちゃったとか……?」
弟くんとお兄さんは顔色を変えた。
「おまっ、渚、にんしん、させたのか………?他所のお宅の、こんな可愛らしいお嬢さんを……?」
「わーん、死んで詫びろ、このスケベ変態渚!なんでちゃんとゴム使わなかったんだよぉ!今時中坊でも避妊は常識だっての!ねえちゃんにシバかれちまえっ」
「兄ちゃんはこの子の親御さんになんてお詫びいれりゃいいんだよぉぉっ!!」
「……何早トチってんだよ、勝手に妄想膨らませんな、馬鹿どもが」
「馬鹿はおまえだ、可愛いカノジョとバコバコヤりまくってたこの変態ッ!うらやましいんだよ!!」
「このスケベ弟!下半身優等生がぁ!!」
「荒野みたいな劣等生よかマシだろ。つぅか、こいつとはそういうのじゃねぇし」
………喧嘩なのか、遊んでるのか。
どうもこれが渚の家のコミュニケーションらしい。
その暑苦しいくらいの賑やかさに、なんで渚が冷めた感じの男になったのか、その理由がちょっと分かった気がして。今の自分の状況も忘れて一瞬苦笑してしまいそうになる。