可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。
『聖人さんは疲れていただけよ。それで魔が差しちゃっただけなのよね?そうじゃなきゃうちの聖人さんがこんなことするわけないもの。ごめんなさい、聖人さん。ただでさえ慣れないお仕事で疲れているのに、“アレ”の面倒を全部聖人さんに押し付けて。どうかお母さんを許して頂戴』
ババアは聖人に『医師の激務でノイローゼになっていただけよね』って、何度も何度も、それこそ洗脳するような勢いで繰り返し、『聖人さんは悪くない』って言い聞かせていた。悪いのは全部あたしなんだって、そう言い続けた。
ずっと前からあたしが聖人からされていたことも知らずに。
『仁花、仁花、好きなんだ。愛しているよ』
ババアは自慢の一人息子がそう言って何度も何度も、妹のあたしの唇を好き勝手に触れてきたことなんて知らない。あたしがそうやって聖人からキスされるたびに自分がゴミになった気分になっていたことも知らない。
離婚してあたしを置いて家を出て行ったママにとっては、愛情を注ぐに値しない何の価値もない存在で。
パパにとっては、本当は引き取りたくもなかったいらない子供。
義母であるババアにとっては、息子を誘惑した悪魔で。
聖人にとっては、道を踏み外させた元凶。
誰にとってもいらない、悪い子。
だからあたしは自分のことをゴミのように扱ってきた。こんなあたしが、ほかの子たちみたいにまっとうに友達作って彼氏作ってなんて、していいわけがない。出来るわけもない。
ゴミにはゴミらしいロクでもない『根暗ぼっち』って扱いがお似合いだって。そうずっと思ってた。思われてた。
なのに渚だけは他の誰とも違った。
「ほら。いいんだよ。大丈夫だから」
愛さんは、自分の部屋で吐き散らしたあたしをその小柄な体に抱いて、あたしを安心させるように頭も背中も撫でてくれる。
渚のお姉さんにまでやさしくされると、あたしはもうあたしを保っていられなくなりそうで。見えないところでぐっと歯を食いしばっていた。