可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。

昨日の夜は、その憧れだった愛さんが隣にいてくれた心強さに、あたしは思っていた以上にほっとしていたんだろう。


でも今日はひとりぼっちだ。


ひとりでいると眠くなるどころか逆に目が冴えてきてしまって、いったいどうやったら眠れるのかわからなくなってくる。昼間に荒野さんや哉人くんたちと過ごしているときには忘れることが出来ていた不安や怖くて嫌な記憶が、つぎつぎに思い浮かんでくる。


(あたし、これからどうすればいいんだろう……いつまでも渚のお家に迷惑かけるわけにもいかないし……でもだからといってあたしには他に逃げ場があるわけじゃない………)


その事実はあたしをいっそう心細くさせる。


(アキちゃんがボストンに早く帰ってくれれば……そうしたらマンションに戻って、またいつも通りの生活に戻れるよね……?)


けど今回は諦めて帰国しても、きっとまたアキちゃんは不意にあたしの前に現れるだろう。そして次こそ引きずってでもあたしをボストンに連れて行こうとするはずだ。


でもあたしは一緒に行きたくなんてない。


連れていかれた先でアキちゃんがあたしに何をしようとするのかなんて、怖くて考えたくもない。またアキちゃんは力づくであたしのことを自分の思い通りにしようとするかもしれないと思うと、お腹の底からぞっと怖気が立ってくる。


(でもあたしはわがままで振り回して、やさしかったアキちゃんの心を壊したんだよ?……だったらあたしは、アキちゃんを受け入れなきゃいけないんじゃないの………?そうやってアキちゃんに償わないと……)


考えれば考えるほど行き詰って、たどり着きたくない結論へ流れていってしまう。そうしているうちにあたしの頭はズキズキと痛み出す。

以前は大好きだったアキちゃんのことを、今は思い出すだけでも嫌な緊張をして、舌が張り付いてしまうほど口の中がカラカラだった。


あたしは愛さんの部屋をそっと出ると一階に降りて行った。


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