可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。

「マジならしてもらっちゃおうかな?あたしね、ホントは独り寝がさびしいから渚を誘惑しに来たの」

目を見開く渚の表情をたっぷりと拝んでやってから、あたしはどうでもよさそうに言う。

「まあ冗談だけどね?」

渚は一瞬息を飲んだ後、苦虫を潰した顔になる。


「何その顔。本気にした?」
「……おまえ……ふざけんなよ」
「ウケるんですけど。渚ってほんとちょろいね。からかいがいあるし」


あたしってほんとサイテーだ。そう思うのに、軽口をたたく口が止まらない。


「本気であたしが添い寝おねだりしに来たとか思った?ありえねーし」

渚の顔はみるみる険しくなる。けれど。

「うぜぇ。マジでムカつくわ、おまえ。……………けどま、これがいつもの仁花だよな」

そういて渚はあたしの頭をナデナデしはじめる。

「はっ?やめてくんない、何この上から目線的な子供扱い」
「今のおまえには子供扱いで十分なんだよ。仁花がいちいちビッチくせぇこと言ってくるときって、大抵弱ってるときか構われたくて寂しがってるときだから」

「………何わかったようなこと言っちゃってるの?ばっかみたい」


あたしは渚を睨み付けるけれど、渚はナデナデをやめない。渚の手はおおきくて温かくて、触れられていると気持ちがいい。だから渚の好きにさせる。

なんかすごくほっとする。心が落ち着いていく。人肌ってたぶん癒し効果があるんだ。


(ごめんね、渚)


やさしくしてもらうことに慣れてなくて、やさしくされることが怖い。

それでつい渚に悪態ついてしまう自分がかっこ悪すぎるし、そんなあたしのことなんて渚がお見通しだってことがはずかしい。

渚は面倒臭くてダメダメなあたしのことを全部わかったうえで、それでもあたしを甘やかそうとする。


(あたし、絶対渚にはかなわないよ……)



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