可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。
◇
しばらくあたしを撫で続けて気が済んだのか、そっと体を離すと渚が聞いてきた。
「今日おまえ、ウチで何してた?」
「……話、聞いてた。渚の小さい頃とかの」
途端に渚は渋い顔して舌打ちする。
「どうせ荒野の馬鹿とか哉人がろくでもないこと話したんだろ」
「渚、お兄さんたちに暴露されたら恥ずかしいことでもあったの?」
渚の顔はますます渋くなる。
「たしかに面白い話、いろいろ聞けたよ?……渚、初恋が幼稚園の先生なんだって?やっぱ小さい頃からベタなとこ外さないんだなぁって感心しちゃった」
「嫌味かよ」
「由紀子先生だっけ?昔はママっ子で大泣きして幼稚園に行きたくないってぐずっていた渚のこと、ぎゅってしてくれた先生なんだってね?入園してすぐにその先生に夢中になっていつも由紀子先生の後くっついて歩いてたって荒野さんから聞いたよ」
「…………その話はもういい」
「先生が結婚するって決まったときには一週間ぐらいずっとわんわん泣いてたんだってね?ちっちゃい頃の渚、顔だけじゃなくて中身も天使みたいにピュアだったから、生まれて初めての失恋が相当つらかったんだね」
「おまえっ……マジ性格悪いなっ」
渚にとっては当時のことを知られるのは相当不名誉なことらしく、あたしの口を塞いで来ようとする。
「やっ、ちょっとやめてよっ」
「おまえホントにときどき本気で張っ倒したくなるわッ」
「わかったから、もう言わないからっ………あ、あとね。今日名前の由来聞いたよ。渚の名前の由来」
あたしは渚の手から逃れると、日中に荒野さんと哉人くんから聞いた話を思い出しながら口を開いた。
「……ええっと、愛さんは『愛と悲しみのボレロ』。荒野さんは『荒野の決闘』で、哉人くんは『素晴らしき哉、人生!』。みんな古い映画のタイトルから取った名前なんだってね」
「まさか親父たちのなれそめとかまで聞いたとか?」
「うん。渚のお父さんとお母さん、デートはいつも映画館で待ち合わせだったって。なんかそういうの、いいよね」