可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。
「………黙れ。耳障りなんだよ。ヤることしか頭にねぇのか、クズが」
渚の言葉の辛辣さに、それまでご機嫌を窺うような態度でいた佐々木たちが急に声を荒げだす。
「んだよ、おまえ。あんなブスのことで何マジにキレてんだよ」
「………水原さ、最近なんなんだよ。お高く止りやがって。どうせおまえだってあのセフレの女とヤりまくってんだろ」
「どこで見つけてくんだよ、ああいうビッチ。飽きたら俺にも貸してくれよ?いかにも男とヤりまくってそうなエロい体してたしな」
「そうそう、すげぇ可愛い顔してたけど、どうせ男遊びの激しいユルい女なんだろ?」
「……………ンだと」
(渚、やめて。そんなヤツらのことなんて相手にしなくていい)
「ちょっと、渚、だめだよっ!!」
七瀬由太が鋭い声を上げてすぐに渚を止めようとしたけれど、それより先に物がぶつかり合うような派手な音が上がる。とうとう口論から殴り合いの喧嘩になってしまったのだ。
(やめて。お願い……………ッ)
渚に訴えたいのに、止めたいのに。止めに入ることが出来ない。
教室の中では、渚は『王様』で、あたしはただの『根暗ぼっち』で。あたしなんかが止めに行っても、渚に恥をかかすだけだから。ただ知らない顔して、早くこの嵐が収まることを願うことしか出来ない。
何かが派手にぶつかって、壊れる音だとか。佐々木の「ざけんな」って怒声だとか。女子の悲鳴だとか。いろんなものが背中越しに聞こえてくる。でもあたしは振り返ることすら出来ない。
渚はあたしのために怒ってくれている。それでもあたしは渚のために出来ることが何もない。
ぐっと握り締めた拳の中で、自分の爪が血が滲みそうになるほど食い込んでいく。するとその手に、急に誰かの手が重なってきた。はっと顔を上げると、クラス委員の、厚化粧の山根だった。
「……今、塩沢に先生呼びに行ってもらってるから」
なぜか山根はあたしに「大丈夫」だと言って、庇うようにあたしの肩を抱いてきた。