可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。
◇
先生が駆けつけてきたときには、渚も佐々木も何人かのクラスメイトに羽交い絞めにされて引き離されてて。教室は倒れた机と椅子と、撒き散らされた誰かの教科書やペンケース、それに割れてしまった花瓶だとかいろんなものが散乱していた。
渚と佐々木が担任と生活指導の教師に連れて行かれると、みんな黙って散らかった教室を直して、チャイムが鳴ると何事もなかったように次の授業がはじまった。
去り際に見た佐々木は、渚に殴られた片頬を赤黒く腫らせていた。けれどそれ以上にひどかったのが渚だ。
佐々木が暴れて手当たり次第に渚にものを投げつけたとき、キャップの開いたペットボトルが中身を撒き散らしながら渚の顔面に掛かって、それに視界を塞がれてる間に、佐々木が振りかざしたパスケースのチェーンが運悪く渚の瞼の上に当たってしまったらしい。
教室を出て行く渚は目元を庇うように手で押さえていて、その指の隙間からは赤い血が流れ落ちていた。
その光景が頭から離れなくて、先生の話なんてちっとも聞こえてこないし、ノートも取れないまま茫然としていた。すると突然、山根が手を上げた。
「すみませーん、先生っ!!」
静かだった教室に、滑舌のいい山根の声が通る。
「崎谷さん、気分が悪いみたいなんで、あたし保健室まで付き添ってきます!」
予期してないことだからびっくりしてると、先生まであたしを見て気遣わし気に「崎谷、大丈夫か?ひどい顔色だぞ」なんて言ってすぐに保健室に行くようにと言ってくる。
「………ねえ、山根さん、どうして」
山根に付き添われて教室を出ると、あたしは山根の真意を探るために小声で訊いた。すると山根はいつもの山根らしくなく、妙に真面目腐った顔で言う。
「だって崎谷っち、ほんとに顔色悪いよ?さすがに心配だよね、あの傷」
何も答えないあたしを気にする様子もなく、山根は続ける。