可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。

「…………そんなことない」
「そんなことあるよ」

「山根さんさ、なんか勘違いしてるんじゃない?」
「ないよ。水原くんが好きなのはリア先輩なんかじゃなくて、絶対崎谷っちだよ」

「わかったようなこと言わないで」
「だってわかるんだもん。あたしこう見えて口は固いんだ。誰にも言わないから隠さなくていいよ?」

「山根さんはわかってない。こっちは違うって言ってるのに、なんでそんなふうに言い切れるの」



喧嘩を売るような勢いで言うあたしに、山根はなぜか静かに微笑んだ。



「わかるよ。だってね、崎谷っち。年季が違うんだよ。あたしはね、水原くんとは小学校から一緒なわけさ」
「どういう……」

どういう意味なんて聞きそうになって。でも山根の表情を見たら言葉は出てこなくなる。だってその顔に、答えはすべて書いてあったから。


切なそうに目を細めて笑う、大人びた笑み。それは何かを堪えるような、諦めることを受け入れるような、何かを悟っている人の目だ。

山根がそんな顔をする理由が分かってしまって、あたしはひどく狼狽えた。



「…………そんな、だって山根さん……山根さんは、七瀬くんが好きだったんじゃなかったの………?」

「そりゃ好きだよ?由太くん昔から超やさしいし、かっこいいし。あんなイケメン前にしたら、さすがに態度変わって当然じゃん。態度変わらない崎谷っちのがフツウじゃないんだってば!」


冗談めかして言った後、山根は急に真顔になって独り言のように呟きだす。


「………でもあたしが好きな人は由太くんじゃない。……小学生のときからずっと見てたから。あたしかなり本気で好きだったから。
この学校だってさ、崎谷っちくらい頭良かったら楽勝だったんだろうけど、水原くんの第一志望って聞いたから、あたし担任にも友達にも『絶対無理』って言われてても死ぬ気で猛勉強して入ったんだよ?もーほんと、寝る時間どころかお風呂も3日にいっぺんしか入らないでさ。血反吐はく思いで勉強し続けたの。
そんくらい大好きな相手がさ、誰を見てるときいちばんしあわせそうな顔してるか、わからないわけないじゃん?水原くんが誰を好きなのか分かるくらい、ほんとに……ほんとにあたしずっと大好きだったんだよ………?」


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