可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。
いつも馬鹿みたいに明るい山根の声がどんどん崩れていくのを聞いて、あたしの胸はぎゅっと締め付けられる。
山根に掛けられる言葉が何もないことが歯痒くて、鈍感すぎた自分のことが恥ずかしくて、ただ黙っていることしか出来ない。
山根は目を潤ませたまますこしの間だけ黙っていたけれど、急に俯かせていた顔を跳ね上げると、いつものような明るい声であたしの背中を押しながら言った。
「だからさ!ほーら行って来い!水原くんのこと、あたしの代りに崎谷っちがしっかり慰めてあげてよ。ね!」
山根は厚化粧だけど。
ケバいけど。声がデカくてちょっとうっさいけど。
でもあたしが知ってるどんな女の子よりも、すごくかわいい子だ。
それが全部渚に伝わっていないことを悔しく思うくらい、かわいくて、いいコで、かっこよくて、一途で。でもあたしは何も言えない。言う資格もない。だから本音だけが口から漏れた。
「………山根さん、すげーいい女だね」
山根はニイっと口角を吊り上げて、ダブルピースを作って笑う。
「でしょっ!?あたしカレシとかにめっちゃ尽くしたいタイプだし、崎谷っちほどカワイくないけど、自分でもそんなに悪くないと思うんだよね!ねえ崎谷っち、カノジョ募集中のイケメンな知り合いでもいたらさぁ、おすすめしておいてよ!1年A組の山根さやかは超いい女だって!」
じゃあね!って笑顔で言って山根はそのまま駆け足で去っていく。
たぶんあたしが見えなくなったら、ひとりで泣くんだろう。必死で笑顔を繕っていたけど、目は今にも涙がこぼれそうなくらい潤んでいた。
ほんとにいい女。あたしなんかじゃ全然敵わないくらい。
(でもごめん-------)
あたしなんかより、たぶん山根の方がずっと相応しい。けど山根に渚への気持ちを告白されて、あたしは自分の気持ちに気付いてしまった。
だからすこしでも素直になれるように、深呼吸してからそっと渚がいるはずの保健室のドアを開いた。