可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。
「悪いけど仁花、俺学校終わったら寄るとこあるから先帰ってろ。代わりに今日は荒野、学校まで迎えに寄越すな」
「え?」
「おまえ一人で歩かせたら、あの変態に攫われるかもしんねぇからな。荒野は馬鹿でもあの筋肉があれば最悪おまえの盾くらいになんだろ」
「渚はどこ行くの?………また痣だらけで帰ってくるつもり?」
「さてな。それは俺の交渉能力と、悪魔野郎の気分次第ってとこか。アイツは敵なら厄介だけど、味方に引き込めば怖いものなしだから」
「………その悪魔野郎っていったい誰のことなの?」
あたしが聞くと、スマホで誰かとメッセージの押収をしていた渚が、顔を上げてふと思い出したように聞き返してくる。
「そういやおまえ、中学ンとき告られたことはあるって言ってたけど、付き合ってた男はいないんだよな?」
「え………うん?」
「仲のいい野郎といい雰囲気になったこととか、マジでないのか?」
「はあ?何言ってるの。………あたし、中学の時に仲の良かった男子なんていないよ?」
「………ホントに?」
「なんなの、しつこいよ。いないっていってるでしょ!」
反感買って同じグループの女子からハブられてからは、あたしにマトモに声を掛けてくる人なんて先生以外いなかった。男子とも女子とも仲良くなりようがない。けど渚に断言した後で、唐突に、かなり久しぶりにある同級生の顔が思い浮かんできた。
でもそのひとは、ただ同じ生徒会のメンバーだっただけで特別親しかったわけでもない。しかもその人はあたしのことをひどく嫌っていた。愛さんみたいにいろんな意味で強い人で、ただあたしが一方的に憧れていただけの相手だ。接点なんてない。
「なんだよその顔。該当人物でもいそうな顔だな」
渚は黙り込んだあたしの顔を見て何か物言いたげな顔になったけれど、何も言わずに目を逸らした。
「………渚?なんか怒ってる?」
「べつに」
そう答えるけど、渚の声は冷たく、あきらかに面白くなさそうな顔している。
荒野さんと帰宅してからも急に渚が不機嫌になってしまった理由を考えてみたけれど、結局あたしには見当がつかないままだった。