可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。
「ね、崎谷さん。今朝いなかったから知らないよね?今日すだっち、休みだから」
いつも持ち歩いている数学の問題集を広げようとすると、教卓越しに山根が話しかけてきた。
接近戦だとちょっと見るに耐えないくらい盛ったメイクをしてる山根は、クラス委員を選ぶくじ引きで、一番最初に引いたくせに即行でアタリを引き当てた。掃除当番の順番を決めるときも、日直のときもことごとくアタリ。
無駄に強いヒキの持ち主。
ちなみに『すだっち』っていうのは、現国の教師須田のことだ。
「そんでね、ほんとは今実習の時間なんだけど、HRデーの班決めしちゃおってなったんだよね。ほら、みんなすっごいたのしみにしてるからさー!」
相槌すら打たないあたしに、山根は話しかけ続ける。
くじ引きで選ばれたクラス委員だけど、このハートの強さ、たしかに委員向けかも。
「ってなわけだからさ、崎谷さんもどっか班、入れてもらってね」
そういった山根はクラスに向き直って、無駄に明るい声で言う。
「ええっと。班員の上限はありませーん!ただし最低でも3人以上で!男女混合でもOKだけど、カップルが2人だけで周るとか、そういうのはナシの方向でお願いしまーす!カップルさん、デートはクラス行事利用しないで個人的にやってねー!」
山根の言葉に、渚と同じグループの誰かが「つぅかうち、まだクラス内カップルとかいねーじゃん」とか、「実はいるんじゃね?」「帰りこっそりラブホ寄ってたりして」とか、くだらないことを言い始める。