可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。


『ニカ、どうして分かってくれないんだ』


あたしの内側に強烈に焼きついている、やさしいやさしい聖人の、かなしげな顔。

あたしが覚えている聖人は、いつもそんな顔してばかりだ。




『ニカ』

『ニカ……』






「ニカ」



あたしを呼ぶ声が、頭の中の声と一瞬リンクする。



あたしの意識はマンションの一室に引き戻されて。

声のした方にちらりと視線を投げかけると渚と目が合った。強くて、自分勝手で、主張のある目だ。




「……ニカって呼ぶなって何度言わせるの?渚の頭、鳥?学習能力ないわけ?」

「呼び方、おまえもいい加減こだわるよな。逆になんでそんな嫌がるわけ?俺にちゃんと名前で呼んで欲しいとか?」

「はあ?キモすぎなんですけど」

「そういやおまえさ。由太に何言ったんだよ?」




あまりに唐突過ぎる話題の変化に言葉が詰まる。



突然何言い出すんだと思う一方で。

今日はこの部屋に来たときから、渚がいつこの話題を切り出そうか窺っていた気もする。




「七瀬?……べつになんも言ってねぇし。こっちが聞きたいわ、急にあたしと同じ班でもいいとかって、いったい何企んでるのって」

「じゃなくて。佐々木の馬鹿が振った罰ゲームンとき、おまえ由太に何言ったんだよ?」



渚はキス未遂のときのことを知りたいらしい。

今まで一度も話題に出したことがなかったくせに、なんで今更。



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