可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。
6 --- 本物のキス
(6)本物のキス
「なっちゃーん!」
4限終了のチャイムが鳴り終えると。廊下からかわいらしい声が響いてきた。
ウチのクラスの出入り口に立っているのは、彼氏好き好きオーラを出しまくってるリア充先輩。
昨日までストレートだった髪がゆるふわに巻かれてて、天使っぽさが倍増してる。
教室じゅうの男子たちは他人のものだと分かっていてもこの美人に見惚れてしまうらしく、まぶしい笑顔を浮かべる先輩を盗み見ていた。
ただひとり、呼ばれた渚だけは少しかったるそうに窓際角席から先輩に歩み寄っていった。
「だから。おまえさ、ガキの頃じゃないんだからいい加減その呼び方やめろよ」
「えー。だってなっちゃんはなっちゃんじゃない」
高校生にもなって『なっちゃん』呼ばわりされてる渚は本気でちょっと嫌そうにしているけれど、リア先輩はむしろうれしそうな顔だ。
渚みたいな男をそんなあだ名で呼べるのは、幼馴染である自分だけの特権なのだということがよく分かっているからなんだろう。
「お昼、また中庭で一緒に食べよ?今日もなっちゃんが好きなおかず、多目に作ってきたよ」
女子にしてはすこし大きめなランチバックを見せながら、リア先輩はこれは自分のものだとばかりに渚の腕に絡みつく。
そうやって甘えてくる先輩を「仕方ねぇな」って目で見つつも、渚は中庭へ向かって歩き出して行った。
「あれちょっとウザくない?」
渚たちの姿が完全に見えなくなると、あたしの席とは通路一本挟んだ隣に座っている女子がいまいましそうにぼやいた。
休み時間にリア先輩が頻繁にウチのクラスにやってくるようになって、今日で3日目。
『2人だけの世界』ってヤツを毎日毎日見せつけられると、さすがに毒の一つも吐きたくなるらしい。