可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。

「崎谷さんって、俺のこと馬鹿だと思ってるでしょ」

「………つぅかキモい」

「俺が崎谷さんに話し掛けたりするのってそんな変なことかな?」

「誰がどう見たって変なことでしょ」




言葉を応酬する間にも、七瀬は上体を傾げて座ってるあたしにどんどん身を乗り出してくる。

顔と顔との距離が、異様に縮まっていく。





-----------やっぱ仕返しのつもりなんだ。





不本意なタイミングでキスされそうになってることを、あたしはただ受け入れるしかなかった。

キスを嫌がる素振りを七瀬なんかに見られるのは、勝手にキスされることよりも不本意なことだったし。

七瀬に『ビビッて逃げた』なんて思われるのも癪。




それに。




渚とリア先輩の、あんなにも完璧なキスを見せられた後では、自分が誰とどこでどんなキスしようが、そんなことはもうどうでもいいことのように思えた。





だってどうせあたしには、あんな本物のキス、一生出来ないんだから。




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