可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。


七瀬の顔がぎりぎりまで近付いて。

七瀬の口元からバターみたいな甘ったるい匂いがこぼれてきて。

七瀬の吐いた息が、顔の中の皮膚の薄い部分にそっと触れて、背中がぞくりとした。




その距離で目が合う。




震えてはないけど、すこし緊張してるのか、七瀬由太のきれいな顔がちょっとだけ強張ってる。




------------でもちゃんとまだ目を開けてる。




あとで『よくできました』って、褒めてあげよ。そんなことを考える。











あとはあたしから目を閉じさえすれば、それははじまり、おわる。










「……崎谷さん?」



焦れたように七瀬が呼んでくる。







------------たかだかキスひとつじゃん?







分かっている。

分かっているのに、なぜか瞼を閉じることが出来ない。








-----------勝手に拒むな、馬鹿。







さんざんキスを遊びに使っておいて。

あたしはいまさら何もったいぶるようなマネしようとしてるんだ?




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