可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。
「…わっ……」
突然力いっぱいネクタイを引かれ、よろけた七瀬はバランスを崩してその場に膝を付いた。
またもやキス未遂。
ネクタイを離してあげながら見下ろしてやると、七瀬は戸惑うようなすこし苛立つような、決まりが悪そうな表情。
------------可愛い。
負け犬みたいなその顔に、にっこり笑いかけてやる。
「七瀬くん。別にいつでもさせてあげるけど。もっと上手に女動かせるようにがんばって?」
言葉に、今のあなたにはあたしをその気にさせることなんて出来ないよ?という嫌味を込めて。
「キスの前にごちゃごちゃしゃべる男なんて興ざめじゃん?」
そういって、すぐ目の前にある七瀬由太の旋毛をよしよししてやる。
七瀬は憮然とした表情で、でもなされるがまま。力関係を正しく理解した飼い犬みたい。
そう思って思わず笑ってしまうと、七瀬は床に崩れたままあたしを見上げてくる。
「………思ったとおり」
「何が?」
「崎谷さんってさ、クラスにいるときは相当猫被ってるよね」