可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。
弱くて繊細なのか、大胆で不敵なのか。
七瀬由太はやっぱり、よく分からない。捉えにくいヤツだ。
警戒するあたしの姿を心地良さそうに眺めた後、七瀬由太は。
「俺ね、あの日。崎谷さんに『キモい』とか『キス童貞』だとか言われて、正直すごい崎谷さんにムカついた」
あたしから受けた侮蔑を思い返すように、一言一言はっきりと言った。
「女子のくせになんてこと言うヤツだ、ありえないって思って、生まれて初めて女の子引っ叩いてやりたいって思ったくらい本気で腹が立ったよ」
「……それでも叩かなかったなんて、紳士かチキンなんだ?」
喧嘩売るようなあたしの言葉を、七瀬は意味深な笑みで受け流す。
「ほんとに。ほんとにあの日はムカついてムカついて、悔しくて眠れなくて。思い出したくもないのに、あれからずっとあのときの崎谷さんのことが頭から離れなかった。それくらい腹が立ってた。そのはずなのに。崎谷さんみたいな嫌な女の子のことなんて、俺すごく苦手で嫌いなはずなのに。なんでなんだろ……」
七瀬は答えなんて求めたりせず、ただ自分自身にだけ問うように呟き続ける。
「……今まで俺の周りにいる女の子は、みんな俺にやさしくしてくれる子ばっかだったから。崎谷さんみたいな人って刺激過多で。すごい強烈で。なんか。なんでだか、見たくもないはずなのに目が離せなくなるし、近寄りたくもないはずなのに無視できなくなった」
「………ドM?」
あたしを見つめる七瀬の目の真剣さに気圧されしそうになって、わざと悪態つくようにいうと。
七瀬はすこしだけ自分の優位を確認したかのように、薄く笑った。
「………さあ?ほんとに最近の俺、なんなんだろうね」
それからはぐらかすようにそう言った。
------------なんだか化かし合いみたい。