可愛げのないあたしと、キスフレンドなあいつ。

王様からのお誘い


【王様からのお誘い】



「渚はそろそろ戻ったほうがいいんじゃない?」



図書室の片隅で。

ただくちびるを触れ合わすような、そんなライトなキスを続けているうちに、時刻はあと10分足らずで4限終了のチャイムが鳴る頃になっていた。



「教室で佐々木たち、渚が戻るのいい子で待ってるだろうし。……もうすぐここにも七瀬来るけど」



先週以来、なぜか七瀬由太は昼休みになると図書室にやってくるようになった。
そしてあたしが嫌な顔するのもおかまいなしに勝手に隣の席に座ってきて、そこでお昼ごはんを食べる。


べつに仲良くなったわけじゃない。


一緒に並んで座っていても、七瀬がたまに一方的に話掛けてくるくらいで、あたしは無視するか適当に相槌打つくらい。いつも適当に受け流してる。


決して七瀬にとって居心地はよくないはずだ。


それでもわざわざ毎日図書室まで足を運んでくるのは、おそらく今の七瀬にとって、教室はあたしの隣以上に居辛い場所だからなんだと思う。



「渚?早く行ったら?」



渚は真顔で何か考えて、立ち上がりもせずにあたしの顔見て黙り込んでいた。



「七瀬にあたしとふたりでいるとこ見られたら面倒じゃん?」

「おまえさ。……いつから由太とメシ友になったんだよ」



機嫌が上向きに修正されつつあった王様の顔が、またちょっと険しくなる。


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