これが恋というものかしら?~眼鏡課長と甘い恋~【完】
 六月――梅雨まっさかりといった天気が続く。

 そんな今日もシトシトと雨が降る、ジメジメした日だった。

 取引先から戻り、宗治を会社の車寄せで降ろした。

 すでに時刻は夕方六時。雨のためかすでにあたりは暗かった。

 街灯の灯りで雨粒が確認できた。どうやら本格的に降り始めたようだ。

 ふと道路の向かいをみると、傘をさした男女が目に入る。

 しかしどうも様子がおかしい。

 言い争いをしているように見えた。

 痴話げんかなら放っておこうと思い、もう一度車に乗り込もうとする。

 しかし、その時俺の目に映った人物は知った顔だった。

「二宮さん……」

 それまで傘でよく見えなかった顔があらわになる。その表情は今にも泣きだしてしまいそうだ。

 相手の男は見るからに高級そうなスーツを着ていた。

 こんなところでどうしたんだ?

 男が彼女の腕をつかんで、何か話をしている。

 しかし道路を挟んだこちら側では内容はわからない。

 彼女の態度から嫌がっていることは明白だ。慌てて、開けていた車のドアを閉めて彼女の元へ駆け寄ろうとする。

 しかし、それを何台もの車が阻む。

「二宮さん……二宮さんっ!」

 俺の声が届いたみたいで、ふたりともこちらを振り向いた。

 まだ車が多くて彼女の元へと辿り着かない。
 
 俺の存在に気が付いてもなお、男は彼女に何かを話かけていた。
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