これが恋というものかしら?~眼鏡課長と甘い恋~【完】
「浴衣着てこなかったんですか?」

白いマキシ丈のワンピースに、ミントグリーンのカーディガンを羽織っている。

風に煽られるスカートが涼しげだ。

「あ……高浜さん。お疲れ様です。私、浴衣を実家に置きっぱなしなんです」

 彼女なら、藍色の古典的な柄の浴衣を綺麗に着こなしそうだ……。何気に想像してその姿が見られないことを少し残念に思う。

「高浜さんこそ、スーツなんですね」

 週末で社内イベントのある日だ。ほかの社員はみな私服だ。

 ただ俺やほかの重役付きの秘書に関しては、取引先と同席することもある。

 実際去年までの協賛席では、花火を見るよりも挨拶の時間が多かったぐらいだ。

 今年も同じようになると思ってスーツできたのに、宗治はさっさとクルーザーに乗ってしまった。

「まぁ、成り行きでこういうことになってしまいました」

 彼女の横に立ち、同じように柵に手をかけてふたりで海をみていた。

「あのあたりは、賑やかそうですね」

 船着き場からほど近いところでは例年屋台が多く並んでいる。

「色々な屋台がありますよ。ずーっと向うまで続いています」

 俺が指さすと彼女は目を見開いて驚いた。

「そんなに遠くまで、すごいですね」

 まるで初めて聞いたかの様子にまさかと思い尋ねてみた。

「一度もこの花火大会にいらしたことないんですか?」

 このあたりでは有名な花火大会だ。小さなころ両親に連れられて来たり、学生のころは友達と一緒に楽しんだりするのが一般的だろう。
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