これが恋というものかしら?~眼鏡課長と甘い恋~【完】
③伝えたい思い
「それじゃあ私がお世話します!」
それは俺が一週間ほどの出張へと出かける二日ほど前。エレベーターを待っていると、丁度彼女が受付の当番を終え俺を見つけて歩み寄ってきた。
何かの拍子に出張の話になり、その間に猫をペットホテルに預けるつもりだと話をしたら、預かると言ってくれた。
当初の予定では猫は環境の変化に敏感だと知人に聞いていたこともあり、設備の整ったペットショップに預けるのがいいという判断をしたのだ。
三日程度であればペットフード等の準備さえしてあれば、留守番させるほうがいいとも聞いていたが今回は一週間だ。
子猫には迷惑をかけるが、ペットホテルで我慢してもらうことにしていた。その話をした途端彼女が目を輝かせながら俺の様子を伺うように覗きこんできた。
「あの……ご迷惑でなければ二・三日に一回私がお世話しに行きたいなぁなんて…」
確かにそのほうが、猫にとっては安心だろう。どうするべきか悩む。
「私もクロに会いたいし、ダメでしょうか?」
どうも彼女の押しには弱い。それは自分でも自覚がある。
部屋にももう何度か入ったことがあるし、特に隠すようなものもない。俺さえOKすれば猫もいつも通りの生活でストレスを感じることもないだろう。
「では、お願いしてもいいですか? 鍵は明日スペアキーをお渡しします」
「いいんですか!? やった」
嬉しそうに頬を緩ませ、小さなガッツポーズを取る。
「面倒なことを頼んだのに、嬉しそうですね」
「面倒だなんて。私が自分から言いだしたんですよ。気にしないでください。あぁ~楽しみだなぁ」
総務課のある階に到着したエレベーターの扉が開く。
「では、明日鍵をお渡しします」
「はい!楽しみにしていますね」
扉が閉まるまで彼女は俺の方に向かって手を振っていた。
無邪気な彼女を見てその日の午前中からの疲れが一気に吹き飛んだ気がした。