これが恋というものかしら?~眼鏡課長と甘い恋~【完】
 部屋のカギはキーレスになっていて、彼女がボタンを押すとすぐに開く。

「寝室は?」

「……こ、こで……す」

 リビングの手前の扉を彼女が指さす。

「悪いけど中に入るぞ」

 断りを入れて寝室へ足を踏み込む。

 大きなダブルベッドが目に入り、そこに彼女を寝かせ布団をかぶせると、うっすらと開いた目で俺を見つめている。

「す……みません。もう平気ですから」

 か細い声で……。どこが平気なんだ。

 ベッド横にあるランプをつけると、部屋がオレンジ色の温かい光で照らされた。そしてそこには、市販の風邪薬の箱があった。

 体調が悪かったのか……。それなのに。

「……やっぱり無鉄砲だな」

「え?」

「いえ、台所借りるぞ。薬飲まないと」

 俺は宣言すると、彼女の返事を待つことなくキッチンに向かった。

 リビングに足を踏み入れる。扉のすぐそばにある電気のスイッチを押すと広い室内が目に入った。

 なんだ、これは……なんというか彼女らしくないな。

 少しの違和感を覚えた。あまりにも生活感がないのだ。

 ひとりで住むには贅沢なほどの広いリビング。大型の家具……テレビやソファはあるがそれ以外のものがない。簡素を好むというよりはガランとしている印象だ。

 奥にあるキッチンも最新式のシステムキッチンだったが設備は充実しているものの、食器棚をみると彼女の分だけの皿しかない。お茶椀に、お椀。お皿が大中小と三枚のみ。
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