これが恋というものかしら?~眼鏡課長と甘い恋~【完】
「すみません。これ、会社でいただきます」

「ほら、急いで」

 急かされた私は、いつもよりも早足で勇矢さんの背中について行く。ときどき彼の歩く速度が緩み、こちらを伺ってくれる。そんな小さなことで、私の心はうれしくてくすぐったくなった。

 もうすぐ会社に到着するというところで、私は勇矢さんに声をかけた。

「あの、先に行ってください」

 私の声に彼が振り返った。

「ん? 何か用事?それなら一緒に」

「いえ。それじゃ意味がないので。私少し時間を置いてから行きます」

 どうして?って顔に書いてある。私も最近勇矢さんの表情から色々読み取れるようになってきた。結構彼女としては進歩してるのではないだろうか?

「あの、一緒に会社に戻ると他の社員に変な風に噂されたら困りますから」

「別に、ただ会社に一緒に戻るだけだろ?」

 私にこと“鈍い”なんて言ってたけど、勇矢さんだって女子の世界がどんなものかわかっていない。

「そんなことしたらすぐ変に話が広がっちゃいますよ。女子のやっかみは怖いんですから」

「やっかみなんて大袈裟だろ」

 勇矢さんは自分の人気に全然気が付いてないんだ。だからそんな風にのんびり構えていれらる。そして、恋愛経験のある大人の彼ならばそう言ったことも気にせず適度にあしらうことができるのかもしれないが、私はそうはいかない。
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