これが恋というものかしら?~眼鏡課長と甘い恋~【完】
「綾上恵さん。おじい様は元総理。お父様も大臣経験者ですね。今はお兄様の大輝(だいき)様が地盤を引き継いで政治活動をなさっている。与党第一党の若手の中でも、抜きんでて人気と実力をお持ちだと記憶しております。ご実家も元々代々続く名家。そんな生まれの方が、派遣社員で働くなど……あぁ、社会見学ですか?」

 私の出自をすらすらと口にした。調べればすぐにわかるような話だ。

「私は、私ひとりの足で立ちたかったんです。だからこそ自分でお金を稼いで……」

「あんな高級マンションに住んでいたと? あれはご実家の持ち物ですよね?」

 勇矢さんのいう通りだ。家を出て働きたいという私の我が儘を飲むために出されたいくつかの条件のひとつが、父が所有するマンションで生活をすることだった。

「はい、でもあれは……」

 言い訳をしようと思った。でも所詮“言い訳”だ。今、この状況で何を言っても無駄だ。勇矢さんが言っていることはすべて事実なのだから。

 急に口をつぐんだ私を冷たい視線が射抜く。

「どうして、俺に……嘘をついたんだ」

 話し方がいつものに戻る。でもそれはきっと彼が感情的になり余裕がなくなったからだろう。

 信じてもらえないかもしれない。受け入れてもらえないかもしれない。

 でも私は自分の気持ちを彼に伝えることしかできなかった。
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