これが恋というものかしら?~眼鏡課長と甘い恋~【完】
どうして彼女がこんなところにいるんだ。

もしかして、俺がこの会社の社員だってわかっていて、あの日俺に近づいたのか?

そもそも声をかけたのもは、俺からだ。

いや、少なくとも派遣社員があの時間に公園にいることなどありえない。

普段自他ともにみとめる冷静な俺だが、このときはあらゆる可能性が頭をよぎる。

そっと給湯室を覗いてみると、彼女がまだそこにいた。

前に会ったときは、腰までの長い黒髪をサラサラと揺らしていたのにバッサリと切って肩に付くくらいの長さだ。

落ち込んでいるのだろうかうつむいたままだ。

しかし次の瞬間ばっと顔を上げてポケットから小さなメモ帳を取り出した。

「お茶は高いものを買わない……っと。安くていいお茶を探す」

ぶつぶつと言いながらペンを走らせている。

こんなことまでメモを取ってるのか?

彼女の手元を見ると、すでに色々書いてあるのだろう随分使い込まれているように見えた。

「お茶ひとつでも奥が深いわ」

彼女がこちらを振り向く前に、俺はもう一度隠れた。

パタパタと足音を立てて、総務課のある方へと走っていった。

「こらっ!足音たてて走らないのっ!」

「ごめんなさい!」

先ほどの社員に見つかってまた叱られている。

その様子をみて、俺はこみあげてくる笑いに耐えきれず肩を揺らして笑ってしまっていた。
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