これが恋というものかしら?~眼鏡課長と甘い恋~【完】
「先に行ってるから、時間少しなら大丈夫だろ?」

 気を利かせてそう言ってくれたのだろう。

「いえ、その必要はありません。すぐに参りましょう」

「勇矢さん……お話があるんです」

 はっきりとした声から彼女の決心の具合がうかがえる。普段ならばこんな公の場で声をかけてくることなんてない。

 恵が思いつめた様子で俺の方に一歩近寄った。しかし俺は彼女が取り付く島がないように振るまう。

「あなたは、いつまでここにいるつもりなのですか? 昨日も申し上げましたが、ここはあなたのような人が遊び半分でいる場所ではありません。業務時間中ですので、仕事の話でないのであれば失礼します」

 そっけなく彼女の前を通りすぎた。そのとき彼女の顔が俯き震えているのが見えたがそのまま足を止めることはなかった。

 立ち止まっている宗治をおきざりにして、エントランスを横切り自動ドアを抜けるまで歩き続けた。

 車寄せに止めてあった車のドアをあけて、宗治が来るのを待つ。その間も無理矢理仕事のことを考えようとしたけれど、思い浮かぶのは思いつめた顔で俺をみていた彼女の姿だった。

 ……あんな顔させたいわけじゃない。
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