これが恋というものかしら?~眼鏡課長と甘い恋~【完】
「未練がましいな……メグ」

「ニャー」

 “メグ”と呼ばれたネコが返事をする。他に何もできない猫が唯一できるのがこれだ。名前を呼ぶと何度でも返事をしてくれる。

「メグ……お前ももう彼女には会えないんだ。ごめんな」

「なぁ~う」

 言葉の意味を理解していないからか、俺が撫でると嬉しそうに目を細めている。

 彼女か初めてこの部屋に来たとき、猫の名前を聞かれて戸惑った。

 “メグ”だなんて名前、彼女に言えるわけない……。

 総務課で彼女の名前を知った後、なんとなくそれまで名前を付けようなどと思っていなかった猫に名前を付けた。思いつきで“メグ”と呼ぶと返事をしたかのように鳴く子猫をみて、そのままそれを名前にしてしまった。

 彼女を目の前にして「名前はメグだ」なんて事実を言うなんてこと恥ずかしすぎて言えるわけない。

 でも、もしその事実を伝えていたら彼女は喜んでくれただろうか……。

 ばかばかしい。

 “もし”なんてことがどれほど人生に置いて無意味なのかくらいは、この歳まで生きていたらわかっているつもりだ。そんな意味のないことを考えるだけ時間の無駄だ。

 けれど、それがわかっていても“もし”を考えてしまう、自分の弱さに自分自身で呆れた。

 ……もしあの時……
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