これが恋というものかしら?~眼鏡課長と甘い恋~【完】
 それは、おとといの出来事だった。

 宗治にとともに取引先の接待へとレストランを訪れていた。そこは以前、彼女とともに訪れた会員制のレストランだった。

 まだ歓談中の宗治を残して、会計のを済ませるために席を立った。そしてある一人の男性に目が留まる。

 この顔どこかで見た気がするな。テレビ? 雑誌? いやそれとは違う……。

 自分の記憶を引っ掻き回して、思いだした。……彼女と雨の中会社の前で話をしていた男だ。

 思い出したと同時に、彼女のあのときの不安そうな表情も思い浮かぶ。ここで話を大きくするべきではない。今はまだ仕事中だ。冷静な俺が落ち着けと脳内で繰り返している。

 そうこうしていると、あの時恵に話かけていたフロアマネージャーが男に話しかけている。そして、俺の方に顔を向けた。

 まずい。睨むほどの勢いで見ていたので、あわてて秘書の顔に戻した。

 フロアマネージャーと話し終わった男が席を立ち、俺の方へと歩いてきた。

 一体どういうことだ? 悪い予感がして手に汗をかいた。そんな俺の状況など知らない相手は笑顔で俺の前に立った。

「あの……失礼ですが、葉山ホールディングスの秘書の方だとお伺いしたのですが」

 意外にも物腰柔らかく話し書けられて拍子抜けした。

「はい。そうですが。この店はお客の個人情報も筒抜けなんですね」

 嫌味のひとつも言いたい。今、俺はここで、この人と話をするつもりはなかったのだから。

「あ、彼を責めないでください。私が妹のことが心配で無理矢理話を聞きだしただけですから」

「妹……?」

 誰のことだ。いやきっと……
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