これが恋というものかしら?~眼鏡課長と甘い恋~【完】
「はい“綾上 恵”いや、そちらでは“二宮 恵”と名乗っているのでしょうか」

 間違いなく彼女の話をしている。

“綾上”……? その名前と目の前の男の顔がリンクする。

「あなたは……民平党(みんぺいとう)の綾上代議士……」

 さっき既視感があったのは、恵と話をしていたところを見ただけではなかったのだ。テレビや雑誌でも何度も見たことがある。与党第一党である民平党の若手ではトップクラスの人気を誇る代議士だ。……たしか彼の祖父が元総理大臣だったはずだ。

 と、いうことは恵もその血筋に当たる。

「ご存じいただけているとは、大変光栄です。議員は知名度も大切ですからね。恵の兄で綾上大輝(だいき)と、申します。」

 さすがというような、営業スマイルを向けられた俺は、作り笑いさえもすることができなかった。

 恵が代議士の娘? しかも綾上家と言えば旧華族の名家だ。そこらへんにいるお嬢様とはわけが違う。いわゆる生粋の生まれながらにして、いや生まれる前からのお嬢様だ。

 何も話さない俺を放って相手が、口を開く。

「我が妹ながら、恵は本当に世間知らずでして。家族で大切に育てすぎたといいますか……。ですので、御社では多大なご迷惑をかけているのではないかと心配していたのですよ」

「いえ、そんなことは」

 相手が何を思って、俺に話しかけてきたのか。また俺自身が何を話せばいいのかわからずに簡易的な返答しかできない。
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