これが恋というものかしら?~眼鏡課長と甘い恋~【完】
最終章 side 恵
①恋を失うということ
「おはようございます。恵お嬢様」
梅さんが、遠慮がちに部屋の襖を開けた。
古い家屋の綾上家だったけれど、離れは暮らしやすいようにリフォームが進んでいてきちんと今時の作りになって居る。
でも今、私が寝起きしている部屋は母屋に近い場所にある客室だ。これは兄が決めたことだ。
この家で跡継ぎである兄の言うことは、絶対である。父も母もよほどのことがない限りそれに口を出さない。もしかすると、それが兄がこの家と綾上の地盤を継ぐ条件だったのかもしれない。
こんな風に言うと、兄が横暴な男に聞こえるかもしれないけれど、決してそういうことではなかった。妹の私を大切にしてくれたし、ひとり暮らしも渋りはしたものの結局認めてくれた。過保護には変わりないが、それも私への愛情だと思っている。
そんな日々に不満などなかった。あの日、あの人に会うまでは。
「……様、お嬢様? いかがなさいましたか?」
鏡の前でぼーっと考えごとをしていた私に、お手伝いさんの梅さんが心配そうな顔を見せた。
梅さんこと、藤本梅(ふじもとうめ)さんは、私が小さい頃からこの綾上家にお手伝いさんとして勤めてくれている。
忙しい父や母の代わりに、姉や母の代わりをしてくれた梅さんは兄や私にとって特別な存在だ。
前に一度、歳を聞いたことがあったが「女性に年齢を尋ねるものではありません」と言われて、本当の歳は結局わからない。おそらく六十代後半ではないのかと思う。
梅さんが、遠慮がちに部屋の襖を開けた。
古い家屋の綾上家だったけれど、離れは暮らしやすいようにリフォームが進んでいてきちんと今時の作りになって居る。
でも今、私が寝起きしている部屋は母屋に近い場所にある客室だ。これは兄が決めたことだ。
この家で跡継ぎである兄の言うことは、絶対である。父も母もよほどのことがない限りそれに口を出さない。もしかすると、それが兄がこの家と綾上の地盤を継ぐ条件だったのかもしれない。
こんな風に言うと、兄が横暴な男に聞こえるかもしれないけれど、決してそういうことではなかった。妹の私を大切にしてくれたし、ひとり暮らしも渋りはしたものの結局認めてくれた。過保護には変わりないが、それも私への愛情だと思っている。
そんな日々に不満などなかった。あの日、あの人に会うまでは。
「……様、お嬢様? いかがなさいましたか?」
鏡の前でぼーっと考えごとをしていた私に、お手伝いさんの梅さんが心配そうな顔を見せた。
梅さんこと、藤本梅(ふじもとうめ)さんは、私が小さい頃からこの綾上家にお手伝いさんとして勤めてくれている。
忙しい父や母の代わりに、姉や母の代わりをしてくれた梅さんは兄や私にとって特別な存在だ。
前に一度、歳を聞いたことがあったが「女性に年齢を尋ねるものではありません」と言われて、本当の歳は結局わからない。おそらく六十代後半ではないのかと思う。