これが恋というものかしら?~眼鏡課長と甘い恋~【完】
 次の日、目覚めたのは、自分のベッドの上だった。そして目の前には懐かしい顔が、目を赤くして私を覗きこんでいた。

「……う、めさん」

 昨日声を上げて泣きすぎたせいで、かすれてしまっている。

「お嬢様、お目覚めですか? お食事お召し上がりになりますか?」

 心配をしているのが表情からわかる。けれどそれを悟られないようにいつも通り毅然とした態度でいることもわかった。

「梅さん、来てくれたの。ありがとう」

 私が力なくお礼を言うと、それまでの態度とは打って変わって梅さんは目に涙をためて私の手を握り締めた。

「梅と一緒に帰りましょう。京都へ」

 その手の懐かしい温かさが、かさかさになった胸にしみた。

「そうね……少し早いけれど、そうしようかな」

 無理矢理作った私の笑顔を見て、私の代わりとでも言わんばかりに梅さんが泣いた。

 その後、我がままだと思ったが数日で葉山での仕事を辞めた。紹介してもらった派遣会社へは体調が悪くこれ以上は続けられないと、登録も抹消してもらう。

 私がひとりで生活したいと、我がままを言ったせいでたくさんの人に迷惑をかけることになった。

 そして一番迷惑をかけた相手……勇矢さんには手紙を残した。

 手渡しできなかったのは残念だったが、できるだけ明るく書いたつもりだ。

 私にとってはかけがえのない日々だったけれど、今の彼にとっては過去の傷をえぐる苦い思い出が増えただけだろう。

 だから最後くらいは、言い訳を聞いてほしかった。それも私のエゴかもしれない。

 でもこれが私が彼にかかわる最後だと思うと、手紙を渡さないという選択肢はなかった。

 最後まで我がままで通した私の日々は……終わったのだ。
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