これが恋というものかしら?~眼鏡課長と甘い恋~【完】

②侘助の庭で


 十二月の寒い、大安の日。

 私は、自分の旦那様となる人に初めて会う。

 梅さんと選んだ(実際は梅さんが決めたものだけど)、クリーム色の振袖を着て日本庭園が自慢の老舗の料亭へと出かけた。

 久しぶりに着た着物が重いせいか、私の心が重いせいか自分で決めたことなのに、そこへ向かう足取りは重い。

 兄と一緒に黒塗りの車に乗り込むと、心配そうな顔で梅さんが私を見つめていた。

「お嬢様、よろしいのですね」

 梅さんの言葉に、私は笑顔でコクンと頷いた。だってこれは私が決めたことなんだから。

「車、出して」

 兄の言葉で運転手が車を出発させた。

 兄妹で特別何かを話すわけでもない。車内は静かだった。

「恵、小関議員はこれから俺と同様、日本を背負っていくと巷では言われている人だ。恵のこともきっと大事にしてくれる。恵の結婚相手にはぴったりだと俺は思っている。けど……」

 いつも物事をはっきりと言い切る兄が、言い渋るなど珍しい。

 私は不思議に思って、窓の外を見ていた視線を兄に移した。

 そこには、いつもの綾上代議士の顔をした兄ではなく私の“お兄ちゃん”がいた。

「どうかした?」

「いいや……何でもない」

 その先の言葉を聞くことができなかったが、兄は今ちゃんと私の幸せを考えてくれている。それだけはわかる。

 大好きな家族のために結婚するのも、いいではないか。

 それが、兄も認めるような立派な人ならなおさら。

 それからすぐに車がスピードを緩めた。そしてゆっくりと停車する。

 私は覚悟を決めて車を降りた。
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