これが恋というものかしら?~眼鏡課長と甘い恋~【完】
 そんな私を見て、一瞬目を細めたような気がしたが次の瞬間には正人さんはまた笑顔に戻っていた。なんだかその温度差が怖くなり、警戒してしまう。

 そんな私の気持ちには気が付いていないようで、さらに距離をつめると今度は私の手を握ってきた。

「せっかくなので、侘助の花を見に行きますか?」

 兄の提案を受け入れた正人さんが、侘助がたくさん咲く場所へと案内してくれる。

「私も、ここは京都に来たときに何度か利用したことがあってね。たしか……あのあたりだったと思うんですが」

 庭の奥にどんどんと手を引かれていく。先ほどいた部屋からは随分離れてしまった。

 なんか部屋にいたときとは、別人みたい。ちょっと強引というかなんというか……。

「あの、私ちゃんと歩けますから……手を離していただけますか?」

「お着物大変そうですよね。大切な私の奥さんが怪我でもしたら大変ですから今日はこうやってエスコートさせてください。近いうちに一緒になるんですからこのくらい構わないでしょう?」

 私が嫌だと言っているのに、まだ手を離してくれない。

『恵の嫌がることはしない』

 初めて結ばれたときに勇矢さんが言ってくれた言葉が思いだされた。

 こんなにも、あの人とは違う相手と私はこれから歩いて行けるのだろうか?急に不安になる。

 俯いたまま手を引かれるままに足だけ動かした。そうすると前を歩いていた正人さんが急に足を止めた。
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