これが恋というものかしら?~眼鏡課長と甘い恋~【完】
 急いで母屋の応接室に行くと、入口で聞き耳を立てている兄が私に気が付いて「しー」と人差し指を口元にあてた。

 部屋の中からは梅さんの声が響いていた。

「だいたい、私のお嬢様を泣かせたこと、一生許すことはできません」

 声色から相当の剣幕で、勇矢さんに喰ってかかっているのがわかる。私が止めようと扉を開けようとするが、兄がその手を止めた。

「恵の……彼女の大切に思っている方に、一生恨まれるということは、私にとって本意ではありません。しかし、今許しを乞うてもお気持ちがおさまるとは思えません。ですので私は、彼女を一生かけて守り幸せにすることで、いつかあなたに許してもらえる日が来るように態度で示したいと思います。どうか、彼女を私の元に連れていくことをお許しください」

兄が「ヒュー」っとからかうように、口笛を吹いた。しかし私は彼が梅さんに言ってくれた言葉が胸に飛び込んできて、心臓がきゅっと音を立てた。

ふたり離れ離れになっていたときの胸の痛みとは違う。それは幸せの痛みだった。

「……あなたのお気持ちはわかりました。お嬢様がお選びになった方です。私も頭ごなしに反対するというわけではありません。それに出ていったときの顔と、お戻りになったときの顔があまりにも違いすぎます。あんなに嬉しそうな顔をなさって……」

「……ありがとうございます。大切にします。ずっと」

ふたりの会話に涙をこぼしそうになったとき、中から急に名前を呼ばれた。
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