これが恋というものかしら?~眼鏡課長と甘い恋~【完】
「しんみりされているようですが、そろそろこちらを出ませんと、困るんじゃありませんか?」

 時計を確認すると、車で戻るならばそろそろ出発しないといけないだろう。

 着替えの後に急いで荷物を詰め込んだ、旅行鞄を持って玄関へと向かう。途中で何も言わずに、勇矢さんがその荷物を持ってくれた。

「では……ご両親には改めてご挨拶に伺います。ご迷惑をおかけいたしましたと、今一度お伝えください」

 きっと両親は小関家へのフォローを行っているのだろう。根底には相手に責めがあるものの、こちらとしても見合いの席に別の男が現れたのだ。私たちが戻る前に、退席させた理由をちゃんと説明をしなくてはならない。

「お嬢様……お元気で」

 目が潤んでいる梅さんを見ると、私まで泣きそうになる。

「いつでも遊びに来てね」

 私はそう告げると、勇矢さんの車に乗り込む。

 ゆっくりと出発した車からは、私が長年過ごしてきた家とともに、一緒に暮らしてきた兄と梅さんがだんだんと小さくなっていく。

……自分で選んだ道だもの。少しくらい寂しくても仕方ない。私は何を犠牲にしても勇矢さんを選んだんだから。

 キュッと唇を噛み閉めて覚悟を決める。

 そんな私をみて勇矢さんが、髪を優しく撫でてくれた。

「本当にこれでよかったのか?」

「はい。私は自分で決めたことです」

私の言葉に勇矢さんは優しく「そうか」とだけ答えてくれた。
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