これが恋というものかしら?~眼鏡課長と甘い恋~【完】
「ちゃんと迎えに来てくれました。それで十分です」

 心が壊れてしまいそうなほど、辛い思いをした。忘れたくでも忘れられない思いがあることを知った。

 どれも人生に必要ないものかもしれない。でも不器用な私たちには必要な回り道だったのではないかと思いたい。

……彼とのことは、私にとってすべてが宝物だから。

 彼の手が伸びてきてそっと私を抱き寄せた。勇矢さんと私の間に挟まれたクロがすっと抜け出て自分の寝床へと帰っていった。

「恵……少し話を聞いてほしい」

 回された腕は優しく、彼の胸は暖かい。

「恵の家の話を聞いたとき、正直どうして話をしてくれなかったのか……初めはそう思った。俺は恵にとってその程度の男だったのかと……それと同時に、自分の力のなさを痛感した」

「違うんです!」

 慌てて顔をあげて否定する。勇矢さんは「わかってる」と笑顔で返してくれた。

「恵の幸せを考えたつもりでも、本当は違ったんだ。恵の口から事実を告げられるのが怖かったんだと思う。恵の意志で恵が……俺の前からいなくなることが耐えられなかったんだ。そんな弱い俺を奮い立たせてくれたのは、やっぱり恵の言葉だった」

 きっと常務に託した手紙のことだろう。あのときの私のありったけの勇矢さんへの気持ちを綴った手紙だ。

「迎えに行くのが遅くなってすまない。色々と手を尽くしていたらぎりぎりになってしまった。それに……大事なことを言ってない」

 大事なこと……それって
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