これが恋というものかしら?~眼鏡課長と甘い恋~【完】
「なんですか?言いたいことがあるならおっしゃってください」

努めて冷静に切り返したが、それがどれぐらい効果があったのかはわからない。

「まぁ、いいんじゃないの? お前もそろそろ恋のひとつやふたつしてみたら?」

手元の書類を整えながら宗治が言う。

本当に余計なお世話だ。

「常務のご心配には及びません。それよりもご自身の身の振り方を考えてください」

「はいはい。お前は本当に説教臭い」

ぶつぶつ言いながら目の前のパソコンに向かって仕事を始めた。

その姿を確認して「失礼します」と声をかけて常務室を後にした。

 常務室の隣にある秘書課に戻り、パソコンを立ち上げた。

 目を通さなければいけない資料が、山積みだ。

 少しでも触ると雪崩をおこしそうだ。

 商談の資料の確認もしておかなかればいけない。出張の日程の調整も……。

 しかしそれらの仕事が全く処理できない。

 目の前のパソコンの画面に映るのは、エントランスでみた彼女の驚いた顔だった。

 なんとか集中しようにも、どうしても彼女のことが気になってしまう。

 俺の存在を彼女は認識したんだ。あの表情から俺のことは覚えているだろう。

ほうっておくのもおかしな話だ。

俺はなんだかよくわからない言い訳をして、終業時刻すぐに社員通用口へと向かった。

宗治の「そろそろ恋のひとつやふたつしたらどうだ」という声が聞こえてきたような気がした。間違いなく気のせいなのに妙に意識してしまっていた。
< 23 / 228 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop