これが恋というものかしら?~眼鏡課長と甘い恋~【完】
「ちょっと失礼しますね」

 断ってから席をたった高浜さんはトイレの方へと歩いて行った。

 その背中を見て思う。

 心に芽生えたこの気持ちを、自分で認めよう。そして大切にしよう。

 だって……これが私の最初で最後の恋だから。

 小さな決心を胸に秘めたときに、先ほどこの席に案内してくれたフロアマネージャーが席へと来た。

「本日のお料理はいかがでしたか?」

「大変おいしかったです」

「以前私、別の店で働いておりまして、お兄様にはずいぶんごひいきにしていただいてたんですよ」

「……兄ですか?」

 さっきまでピンク色だった心の中が陰ってくる。

「はい。何度かご一緒でしたよね?」

「ど、どなたかと勘違いされていないですか? ……私は」

「どうかしましたか?」

 席へと戻ってきた高浜さんが私の言葉を遮った。

「あ、あの……私」

 私の顔色を見て、年配のフロアマネージャーが何かに気が付いたのだろう。

「いえ……私が人違いをしていたようで。大変失礼いたしました」

 深々と頭を下げられた。

「あの、お気になさらないでください」

 私はそれ以上その場の雰囲気が悪くならないように笑顔を張り付けた。

 大切にしたい……この気持ちだけは。
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