これが恋というものかしら?~眼鏡課長と甘い恋~【完】
「猫はいいですね。気まぐれだが嘘はつかない」

「嘘ですか?」

突拍子もないことを言い始めた俺の言葉に、彼女が反応した。

「あ……すみません。変な事を言いました」

「いえ、もしよければお話を続けてください」

まっすぐにでも柔らかく向けられる彼女の視線が俺の口を滑らせたのか……。

それとも俺自身が話をしたかったのか……。

「二宮さんは今までに付き合った男性はいますか?」

「あ、えーっと」

戸惑う彼女をみて答えにくい質問だったと後悔する。

こういうところが、無神経だとよく宗治に言われていたことを思いだした。

「答えにくいですよね。すみません」

「いや、あの。実はお付き合いをしたことがなくて。この歳ではずかしいんですが」

 子猫の尻尾を指で遊びながら恥ずかしそうに答えてくれた。

そしてその言葉にどこか安心と満足を覚えている自分に呆れた。

そうであってほしい……無意識のうちにそう思っていたのだろう。

「はずかしくなんてないですよ。周りにパートナーがいるからと言って焦る必要なんてないですから。そんなくだらない理由で自分を偽ってお付き合いしてもうまくいきません」

昔の暗い記憶が思いだされた。

俺の中に今でも消えない思い。自分自身を否定されたあの時のことを今も忘れられないでいる。
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