これが恋というものかしら?~眼鏡課長と甘い恋~【完】
「あなたの嘘なら、すぐに見抜く自信があります。全部顔に出ますから」

わかりやすい彼女のことだ。隠し事さえもうまくできないだろう。

笑いながら答えた俺の顔を一瞬悲しそうに見つめた。

「……え?」

その意味がわからず戸惑ってしまう。

「あ、そうですよね。私の嘘なんて高浜さんにかかったらすぐにばれてしまいますよね」

アハハと声を上げて笑う彼女。しかし先ほど見せた表情がどこか引っかかる。

「何か、気に障ることを言いましたか?」

「いいえ! あの、そろそろ私帰りますね。もう遅い時間ですし」

 時計を確認すると、あと十五分で日付が変わろうとしていた。

 帰ろうとしている彼女を引き留めてまでする話ではない。

「駅前に行けばタクシーがつかまります。一緒に行きましょう」

「ひとりで大丈夫です」

「駅までひとり歩くなんて、もう少し危機感を持ってください」

 相変わらず自分に関して無頓着だ。俺は彼女よりも先にドアをあけて部屋の外にでた。

「ご迷惑をかけてすみません。私がクロに会いたいと言ったばっかりに」

「気にしないでください。招き入れたのは私ですから」

 そう答えたが本音は違う。

 どこか沈んだ表情のままの彼女と別れたくなかったからだ。

 駅までの道のり、別れ際でもいい。最後に笑顔の彼女がみたかった。

 それはただの俺の我が儘だ。
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