蒼の歩み
「俺、真歩の笑顔好きだな。安心する」



「えっ、何それ。口説いてるのー?」



と、照れ隠しにおどけてみせる。



「違うって、大体俺がオメェを口説くわけねーだろ」



……真顔でそんな返しをされてしまったら、それはそれで哀しいぞ。



「あのね、私。笑顔が足りない、ってよく言われるの。だから、愛嬌のある人間になりたいなぁって」



そう、昨日も職場で言われたばかり。



「オメェ、愛嬌あると思うけどな」



「え、そうかな。もー、そんな突然嬉しいこと言ってくれちゃって!でもねー、仕事場とか他の人からはそう思われてないと思うんだ……」



「他の奴だと違うのか。どんなだ。ツンツンしてんのか」



「ツンツンはしてないかなー。んー、そう言われてみればそんなに変わりはないのかな……?」



「あっちもこっちも人格変えるなんざ器用な事できねェだろうしな。強いて言えば俺は、初対面ではよっぽどの事がねェとテメーから喋らねェ」



「初対面、ねぇ……。あ、でも。私には声かけてくれたよね。転んじゃった時」



「基本テメーからはいかねぇんだけどな。無差別に手を差し延べる程いい人間ではないんでね。だが、大事にしてェって奴はとことんでも付き合う。甘ェ事は言わねェんで、そういう優しさを求める奴は離れていくなぁ」
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