蒼の歩み
「あ、夕日……。もうすぐで全部、海に覆われちゃうね」
なんだか、涙が出てきそう、目の前の景色が綺麗すぎて。と、私が零すと。
「知ってるか?沈む夕陽を見て涙ってのは『秋のセンチメンタル現象』と言うらしい。他に、何かの香りに昔の記憶を呼び覚ますことや、人肌が恋しいと公言してしまう、とか」
流石蒼君、博識。
「秋じゃねーけど、この間夕陽を眺めていたら、その日の出来事や過去に夕陽を見た時の想い出が頭を過ぎったな」
「そういうのって、あるよね。あー……、なんか私も人肌恋しいかなー」
人肌が恋しい、とこれ見よがしに公言してみた。
蒼君、抱きしめてくれないかなー。とは恥ずかしくて言えなかったけれど、こう発言したら彼は何かアクションを起こしてくれないかと少しの期待を込めながら。
「人肌恋しい?なに、どうされてーの」
言わなきゃわかんねーぞ、と頬をムニッと突かれた。わぁ、なんだよう。
「……撫でられたい」
蒼君の、頭ぽんぽん好きなんだけど、そういえば久しくされていないな、と。
「撫でられてぇって、何処」
……え?
「何処って……。頭のつもりで言ったのだけど、そんな聞かれ方したら他の箇所も想像してしまう、とか言ったら何を想像したのとか聞かれるんだろうなああもう」
ああもう!
「お、よくわかってんじゃねーか。つーか、それを言うって事ぁやっぱ他も想像したんだろ、わかってるわかってる」
肩を、ぽんと叩かれた。
「何がわかってるんだよォォ……!もー!」
その後、何故かまあまあ、と宥められ。お互い再び目の前の綺麗な景色に目を遣り、夕日が海に溶けていく様を2人で見送った――