蒼の歩み
「無くたってこれから探しゃいいし、決まってねェ分色々できんじゃねーの。好きと向いてるのとは違うんだ。そのうちイメージできてくんだろ。それまでに色んな仕事してみたらいいんじゃねェか。派遣とかよ。遣りてえ事があるからどうだってんだ」



「色んな仕事、かぁ。……ちなみに蒼君は、遣り甲斐感じてる?仕事」



「遣り甲斐な、感じてねーワケじゃねェ。ってのも今本職じゃねェんでな」



「あら、そうなんだ」



私、けっきょく蒼君が何の仕事しているのだとかきちんと知らないままだ。……でも、知らなくてもいいとも思った。何の仕事してようが幾つだろうが、蒼君は蒼君だ。何をしていようと……、好きだから。



「でも、やればやるだけテメーに返ってくるし、それが無駄とは思わねェ。何やってても精一杯やりゃ得るモンはあるだろうし、今後の糧になると思ってんだ。職種は何であれ、なきゃ困るモンだろ?」



「うん、そうだね」



無駄なモノはない、か。フリーター生活を恥じていた私だったが、蒼君にこう言われてから。人生に無駄なモノはないと思うと、教えられてから。私は私の生き方でいいのだと思うようになった。



……蒼君は、私のことをどんどん変えていってくれるね。



私は私のままでいい、か。無理に変えたり焦ったりする必要は、ないのかな。



と、そんな話をしていると、私達の住んでいる街中へと突入した様で。もうすぐ、お別れの時間がやってくる。



「蒼君、今日はありがとう」



私がお礼の言葉を述べると、彼は何だよ改まって、と笑っていた。



「夕日……、すごい綺麗だったね」



「ああ、そうだな。あんな景色を、真歩と見れて本当に良かった。そろそろ、独り占めにも飽きてきたとこだったんだ」



「これからは……、2人の場所にしたい、な」



「お、いいじゃねーかソレ」




「私ね、夕焼けを見て。何故だか、蒼君と出逢った日を思い出したよ。……夕方に出逢ったというわけでもないのに、何であの日のこと思い出したんだろ」



「2年前のことか?」



「んーん、4月。私がアドレスを聞いたあの日。……不思議だよね。私にとって蒼君と初めて出会ったのは今年の4月なのに、蒼君にとっては2年前が私との初の出会いなんだもの」



本当にな、と彼は賛同するかのように呟いた。



「私、自分の行動が信じられなかったのずっと。初対面の人にアドレス聞くだなんて……」



「俺は、嬉しかったけどなアドレス聞かれて。……真歩のこと、知ってたから。正直、変な奴とも少し思いはしたが」



……変な奴、って。ちょっとは思っていたのね。



「でもね、今ならわかるの。蒼君がこの前見せてくれた本、あったでしょ。ソウルメイトがなんちゃら。きっと、直感的なものが働いたんだね」



「お互い、何か感じるものがあったのかもな」



「お互い、って……。蒼君も私に、何か感じたの?」



「あれ、言ってなかったっけ。じゃ、言わねぇ」



「え、なんで」



こんな会話を繰り広げていると、あっという間に下宿の前に。



「真歩、着いたぞ」
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