蒼の歩み
「私、日常的に蒼君のことばっかり考えてるよ」



手を重ねながら、少し恥ずかしかったがいつも蒼君のことを考えていることを伝えた。……こうしていると、少し映画館での出来事を思い出した。あの日も彼から、楽しい思い出をたくさん貰ったな。




「げ、真歩」



あれ……。思っていた反応と違う。嫌そうな、声?




「日常的に俺のこと何しようと考えてんだ。まさか俺のこと犯s……」



台無しだ。彼の肩を叩かずにはいられなかった。やっぱりこの人、時々良い感じに腹立つ時があるぞ。バシッ、と軽く叩いたら蒼君の言葉が止まった。



「『真歩、俺のこと考えてくれてたのかハァハァ。嬉しいよハァハァ』という反応を私は期待していたのに……!」



「真歩、俺のこと考えてくれてたのかゲェゲェ。嬉しいよオボロロロ」



「もー!」



もういい、降りる、と言わんばかりに車のドアに手を掛けた。そんな私の様子を見て彼は、嘘々、と言ってくる。わかってる、わかってるけど……。




「じゃあな、真歩」



「う、うん」



でも車内で長居をするのも悪いし、お別れするのにも丁度良い時間でもあった。私は外に出て、彼にそっと手を振った。




「真歩ー」



車の窓を開けて、彼は私の名を呼ぶ。



「んー?」



「お前、いつも俺のこと考えてくれてるみてぇだけど……。考えてんのは、真歩だけじゃないから」



それだけ言うと、彼はじゃーな、と車を発進させた。



彼の言葉の意味がしばらく理解出来ずに、その場に呆然と立ち尽くす私。それって、それって……。



「何それ、ずるいよ……」



前向きに、捉えていいのかな。




秋も半ば。もうすぐで、私の誕生日なのだが、彼は知らない。



誕生日を蒼君と過ごせたらだなんて考えも頭を過ぎるが、次に会えるのはいつかな。

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