蒼の歩み
いつも通りに、会話をする為に喫茶店での約束を取り付けようとしたら。たまには一緒にご飯でもどうかとの彼からのお誘い。



何処かお店に食べに行くのかな、と想像していたが。何と、蒼君が手作りしてくれるそうな。



蒼君が料理中、ただ黙っているのは悪いので、私も手伝おうかと声をかけたが。台所に自分以外の人間が来るのは嫌だか何だか、言われてしまった。その気持ちもわからなくはないが、ちと哀しいものがある。



「それにしても、今日はどうして。お食事に誘ってくれたの?」



「深い理由はねーよ。気まぐれ。っつーか、俺の家でのんびり真歩と過ごしたかったが、話すだけじゃ悪いと思ってね」



だからパスタをご馳走した、と。



「ええ……!そんなの、逆に何か悪いよ」



「悪くないって」




それにしても、パスタはもちろん、付け合せのスープまでもが美味しい。ただの卵スープのはずなのに、何を入れたらこんな味になるのだろう。



「ねぇ、蒼君。……今度、一緒にご飯作ろー?」



私も蒼君みたいに美味しいパスタ、作りたいもん。



「気が向いたらなー。真歩、オメェ料理できるのか?」



「で、できないことないもん。そうだ、今度は私が蒼君に料理作ったげるね!」



「ん、期待しないで待ってるわ」



いつか……。彼の為に美味しいご飯を作って。蒼君に、美味しいって言ってもらいたい。そういう気持ちが芽生えてきた。



「……にしても、自分の作ったもんをうめぇと食べてくれる人がいるってのは、嬉しいもんだな」



「だってホントに美味しいんだもん。毎日作ってくれたら毎日言うよ私」


「……無視」


「えー」



そんな会話をした後、ご馳走様ー、と2人して食べ終わるタイミングが同じで。せめて洗い物をしようかと食器を運んだら、案の定断られた。



テレビでも観てろと言われ。リモコンを手に取り適当に番組を入れ、テレビに顔を向けながら。……洗い物している彼の姿をちらりと盗み見。



1人暮らし暦が長い所為もあって。料理は出来るし炊事もお手の物。彼の家庭的な一面を目にできた日だ。
< 116 / 142 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop