蒼の歩み
――片づけが終わったようで、彼は深い息を吐きながら、私の横に腰かけてきた。



……。いつものことなのに。こんなの、車内では普通なのに。近距離が何だか恥ずかしくて、密着しそうでしなさそうなこの位置が小っ恥ずかしくて。でも立ち上がったり位置をずらすのも不自然だな、と。1人、悶えていた。すると――



「真ー歩」



「っ!?」



肩を抱き寄せられた。突然のことに、思わず硬直する私。……私のことを抱き寄せた彼の右手には、缶チューハイがひらひら。



「真歩も飲む?酒」



「……へ?」



どうやら、洗い物を終えたあとに冷蔵庫から缶チューハイを2つ取り出して持ってきていたらしい。



「でも、私お酒苦手」



「うん、知ってる。無理に飲ませる気はねぇけど、真歩が好きそうだな、と。何なら半分でも一口でも構わねェから」





私が好きそう?お酒を?



言われて、缶のラベルを確認すると。どうやらカルピスのお酒のようで。



「あ、美味しそう……!」



「言うと思った。乾杯しよーぜ?」



「うん!」



アルコールも3%と低め。普段彼はこう言うお酒は飲まないだろうに、私の為に買ってきてくれたのだろうか。缶を開け、2人で乾杯をした。



「ん、本当にカルピスのお酒だー」



「真歩、酒の席だと、どんな酒飲むの?」



「その酒の席自体、あんまり参加しないんだけどね。お酒の種類は、よくわからないや」



「酒の席ってのはいいよな。色んな奴の弱みを握れる」



「……へ?」



いつの間にやら私のことを抱き寄せてた彼の手は自分の身から離れていて、少しだけ残念に思う。



「そういう、飲みの席とか楽しいことは好きだけど。私、飲みすぎて失敗しちゃったことがあって……」



そう、アレはまだ自分がお酒に弱いと自覚していなかった頃。成人式の後の2次会で、やらかした覚えがあるようなないような――

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