蒼の歩み
それから日にちが過ぎ、冬の始まりが訪れた。蒼君のことを私が知ってから、もう半年以上も経つのか。時間の流れと言うものは早いものだが、蒼君と逢えない日々が続いている最近は遅く感じていた。



寒い、寒い冬の始まり。……私の心も凍ってしまうような出来事が、不意に訪れた。



職場で、お金の管理をしていた。普段は私以外の人が管理をするか、私に教える為に2人以上でその仕事をするかのどちらかだった。



でも、今日は。いつもその仕事をしている人が休憩中だった為、私1人でその仕事を行った。お札の枚数をきちんと確認し封筒に入れ、金庫に入れる。……私はこの日、夕方で上がったのだが、私が職場を出た後に問題が起きたそうだ。



翌日。いつも通りに仕事をし、退社時間まであと少しというところで、上司に呼ばれ。何でしょう、と話を聞いていると。



――金庫の中のお札の枚数が、1枚足りなかったそうだ。





どうして私にそのようなことを言ってきたのか、理解した。と、同時に悪いことをしたわけではないのに自分の顔が青くなっていくのを感じていく。



私はやっていないです。と、何度も何度も訴えたのだが。



私でなければ誰だと聞かれれば、私は答えることが出来なくて。問い詰められて、すんなり口が開いてくれない。



だんまりするのは、私の悪い癖。これがまた更なる誤解を生んだのか。責められて責められて、怖いとは違うが、気持ち悪くて。



……どうやら、昨日のこの件のことは他の職場の人たちも知っていたようで。別室に呼ばれている私のことを不信に思っているに、違いない。



悪いけど退職届けを書いてくれないか、と紙を差し出され。



納得できなくて不満で心外で仕方が無かったが、最後にもう一度だけ無実を主張した後、渋々紙に文字を記入した。



……いいや、どうせこんな会社。誰も私のことを見てくれる人はいなかったし、遣り甲斐もなかった。辞めた理由はアレだが、いずれこうする予定だったのだ――
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