蒼の歩み

「……なに」



引かれてしまったのか、先ほどよりトーンが低い彼の声。……それなのに、私は。



「……あの！」


息を吸ってから、もう一度。



「何が、初めてではないのですか……？」



これからもっと引かれるのではないかと思う発言をしてしまうだなんて。



「……」



ああ、黙っちゃった。ほら、何を言ってるの私は。他のこと、他のことを聞こう。



「あ、何でもないです！あ、あの、よければ連絡先、教えてもらえますか？」



……今日の私は、どうかしている。普段ならこういうことは言わないし、どちらかというと私は積極的な性格というわけではない。……やはり、呆れられてしまったか。なんだこの女は、と。いつの間にか男の人は私の元を離れてしまっていた。



……絶対、変な女だと思われた。



そうだよ、これが普通の反応。もしも逆の立場だったら、私だっていきなりこんなことを言われたら困るもの。



けっきょく、この胸の気持ちの正体がわからないまま、私は彼を目で追った。丁度電灯の下に行き着いた彼の後姿を見て私は。綺麗な薄茶色の髪をしているな、と今更どうでもいい感想を胸に感じた。……だって、もう二度と逢うことはないだろうから。どうでもいい。