蒼の歩み
彼と、会った。お決まりの喫茶店で。彼と私の生活時間帯が合わないせいでお互いが会うのは中々困難だが、そんな少しの間でも。……このひと時が、日々の楽しみで楽しみで私には仕方が無かった。メールでも時々相手してもらってはいるが、やっぱり直で話すほうが彼の表情や声もわかるので、良い。



でも、今日は何だかいつもと違う。いつもと違うのは、……香りだ。シャンプーの香りなのか香水かはわからないが、彼独特の良い香りが、今はしない。



というかタバコの匂いが、する。




「ねぇ、蒼君」



「ん?」



「蒼君ってタバコ、吸うの?」



「いや、俺吸わねぇよ」




「……?」



では何故蒼君からタバコの匂いが。私が疑問を抱いていることに気がついたのか、彼は「ああ」と言葉を発し始めた。




「真歩に会う前、寄ってた場所があるんだ」



寄ってた場所?



……寄ってた場所、よりも私が気になったのは。蒼君が私の名前を、呼んだ。私、蒼君に真歩って呼ばれるの、好きみたい。



私もいつの間にやら。秋塚さんから蒼君呼びになり、ついでに言うとタメ口で話すようになったが、いつ頃からなのかわからない。自然と、本当に自然と。



気がつけば、この呼び方や喋り方が普通に。
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